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遺産分割の確定前に相続預金を払い戻せる制度について解説!

預貯金については名義人本人が死亡すると凍結されます。

そして払戻し(解約、名義変更)をする場合には原則として遺産分割を確定させる必要があります。

遺産分割に争いがあり遺産分割協議が滞ってしまうと相続預金の払戻しができず各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いのためにお金が必要になったときに困ってしまいますよね。。

そんなときに相続人単独で相続預金の払戻しができる制度が設けられています。

今回は遺産分割の確定前に相続預金を払い戻せる制度について解説します。

目次

払戻し制度について

2つの制度がある

相続預金の払戻し制度は大きく2つの制度に分けられています。

どちらの制度も2019年の民法改正により新しく設けられた制度です。

  1. 簡易的な手続きで払戻しができる制度
    民法909条の2
  2. 家庭裁判所の判断により払戻しができる制度
    家事事件手続法200条3項

2つの制度を比較すると↓の表ととおり。

小口の資金需要については1の簡易的な手続きにより行い、比較的大口の資金需要がある場合については2の家庭裁判所での手続きにて、と考えるのがよいかと思います。

1、簡易的な手続き2、家庭裁判所
規定条文民法
909条の2
家事事件
手続法
200条3項
手続きする場所金融機関裁判所と
金融機関
払戻しできる金額少ない多め
適用要件なしあり

2つの制度の詳細はこのあと説明していきます。

払戻した預貯金の遺産分割での扱い

払戻し制度を利用した預貯金については、その相続人が遺産分割によりこれを先取りしたものと考えます。

今後の遺産分割において、払戻した預貯金の金額分、もらえる金額が調整される(減らされる)こととなります。

注意!遺言書があるときにはつかえない

預貯金の遺産分割について記載された遺言書がある場合に払戻し制度を利用することはできません。

遺言書がある場合には遺言書に沿って遺産分割を行うべきという考え方があるからです。

注意!払戻しをすると相続放棄ができない

財産の一部でも取得してしまうと相続放棄が認められません。

被相続人が債務を有していて、相続放棄を検討している場合には払戻し手続きをしないように気をつけましょう。

1、簡易的な手続きで払い戻しができる制度

それでは制度の詳細を説明します。

まずは家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払いを受けられる制度です。

民法909条の2に定められている制度です。

払戻しができる金額に限度がありますが、金融機関の手続きのみで払戻しができるため手続きが簡単です。

相続開始時の預金額×法定相続分×1/3まで払戻しできる

払戻しができる金額は相続開始時の預金額のうち、法定相続分相当の3分の1です。

口座ごと、定期預金の場合には明細ごとに計算する

↑の算式の計算は口座ごと、定期預金には明細ごとに計算します。

ただし、同一金融機関からの払い戻しは150万円が上限

ただし、金融機関ごとの払戻し額は150万円が上限になります。

ここまでの計算を具体例で説明します。
相続人3名(妻・長男・二男)のケースで長男が払戻しをできる金額を計算します。

■長男の法定相続分
4分の1

■A銀行 支店ごとの相続開始時の残高

  • 横浜支店 残高  500万
  • 川崎支店 残高 1,000万
  • 渋谷支店 残高  200万

■払戻し金額の計算

  • 横浜支店
    …500万×4分の1×3分の1=41万
  • 川崎支店
    …1,000万×4分の1×3分の1=83万
  • 渋谷支店
    …200万×4分の1×3分の1=16万

→合計41万+83万+16万=140万
※限度額の範囲内なので全額払戻し可

↑の事例ではA銀行の各支店ごとの残高にもとづいて計算した払戻し金額の合計は140万円でした。

同一金融機関の限度額の範囲内のため、こちらで計算した金額が払戻されることとなります。

■長男の法定相続分
4分の1

■B銀行 支店ごとの相続開始時の残高

  • 横浜支店 残高 1,500万
  • 新宿支店 残高 500万

■払戻し金額の計算

  • 横浜支店
    …1,500万×4分の1×3分の1=125万
  • 新宿支店
    …500万××4分の1×3分の1=41万

合計125万+41万=166万

※同一金融機関の限度額150万円を超えているため
払戻し金額は150万円

↑のB銀行の事例では支店ごとに計算した払戻し金額の合計が166万となり同一金融機関の限度額150万円を超えているため、払戻しができる金額は150万円となります。

どうやって手続きする?

制度を利用するに当たっては本人確認書類に加え↓の書類が必要になります。

払い戻し制度を利用するときに必要な書類
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払い戻しを希望する人(本人)の印鑑証明書

具体的には各金融機関で異なるため『遺産分割前の相続預金の払い戻し制度』を利用したい旨を連絡したうえで書類の準備を進めるとよいでしょう。

2、家庭裁判所の判断により払い戻しができる制度

払戻し制度のふたつめ。家事事件手続法200条3項に規定されている制度です。

家庭裁判所に申しててて審判を得ることにより相続預金の一部を仮に取得して単独で払い戻しを受けることができます。

手続きはやや面倒ですが、簡便的な手続きと比較すると多くの金額の払戻しを受けることができる制度です。

制度を使うための要件

この制度を利用するためには以下の要件を満たしている必要があります。

  1. 遺産の分割の審判又は調停の申立てがあること

    →実際に家庭裁判所などに遺産分割に関しての審判や調停の申し立てがされている必要があります。

    当事者間での話し合いをしている段階ではこの制度は利用できません。
  2. 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情が存在する

    →払戻し制度を申請する際には、払戻しする必要性、事情が必要となります。

    相続した債務の支払いや相続人の生活費のため、、など具体的な理由を説明していく必要があります。
  3. 他の共同相続人の利益を害さないこと

    →他の相続人の利益を害するような払戻しは認められません。

いくらまでできる?

払戻しを受けたい金額を自分で申請した上で、事情等を勘案し裁判所が認めた金額まで払戻しを受けることができます。

どうやって手続きする?

まずは家庭裁判所にて申請を行います。

家庭裁判所にて申請が通ると家庭裁判所の審判書謄本をもらうことができます。こちらの書類と払戻しを希望する人(本人)の印鑑証明書を用意して金融機関に連絡をしましょう。

家庭裁判所の手続きは非常に複雑のため、弁護士など専門家にご依頼したほうがよいでしょう。

まとめ

今回は遺産分割の確定前に相続預金を払い戻せる制度についてお話しました。

ふたつの制度をまとめると↓の表のとおり。

まずは1の簡易的な手続きで払戻しができる制度を利用するとよいでしょう。

1、簡易的な手続き2、家庭裁判所
規定条文民法
909条の2
家事事件
手続法
200条3項
手続きする場所金融機関裁判所と
金融機関
払戻しできる金額少ない多め
適用要件なしあり

また、相続税の申告期限は遺産分割を待ってくれません!遺産分割が確定していない場合でも申告と納税が必要になります。

詳細は↓の記事でまとめていますので合わせて確認してみてください。


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この記事を書いた人

相続税対策・不動産税務に強い税理士です。

『お客様一人ひとりにオーダーメイドのサービスを』を理念とし、サービス提供にあたってお客様との対話を最も重視しています。

神奈川県三浦市出身。1984年生まれ。

追浜高校→明治学院大学→同大学院→
税理士法人レガシィ2年半
→響き税理士法人11年

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