夫婦のどちらかが亡くなり相続した後に、もう一人の相続が発生することを二次相続といいます。
夫婦の場合、多くは同年代であることから、二次相続をふまえて一次相続の遺産分割をどのようにするべきか、多くの方から相談を受けます。
今回は一次相続・二次相続を踏まえた遺産分割をどのように考えるべきか、整理したいと思います。
配偶者の税額軽減について
一次相続・二次相続の遺産分割を考える上では配偶者の税額軽減の知識が欠かせません。
相続税には配偶者の税額軽減の規定が設けられています。
この規定は配偶者が相続財産の2分の1(正確には法定相続分)もしくは1億6,000万円までであれば、財産をもらっても相続税がゼロになるというもの。
被相続人の死亡後の配偶者への生活保障を考慮し手厚い保護が設けられています。
この規定を利用すれば一次相続の相続税をゼロにすることもできます。(財産が1億6,000万円以下の場合)
ただし、二次相続のときの相続税負担には注意が必要になります。
二次相続税に注意!だけど、税金だけで判断するのはNG
配偶者の税額軽減を利用して一次相続税を減らすと、二次相続税は増えることになります。
一次相続の遺産分割を考える上では二次相続税のことを考慮にいれながら決める必要があります。
とはいっても、税金負担だけで遺産分割を考えることは好ましくありません。
なぜなら、二次相続税を減らすためには配偶者の取得割合を下げる必要があり、その点が配偶者の今後の生活保障からすると逆行してしまうからです。
配偶者の生活を第一に
一次相続の遺産分割でまず念頭に置くべきことは配偶者の今後の生活です。
相続税の負担だけ考えて配偶者の相続分がゼロになり、その後の生活ができなくなっては本末転倒。
そうならないためにやるべきことは↓の3つです。この3つはできれば配偶者主導で進めましょう。
- 配偶者の財産の棚卸し
- 今後の収入や生活費を見通す
- やりたいことにどのくらいお金がかかるか試算する
配偶者の財産の棚卸し
配偶者固有の財産が何が・どのくらいあるのか棚卸ししましょう。
銀行預金であれば銀行、支店、口座番号、現在残高。上場株式、投資信託であれば証券会社名、支店、口座番号、現在の時価など、できるだけ細かく整理します。
また、財産だけではなく債務の確認も必要です。
財産一覧表の作成方法についてはこちらでも詳細を解説しています。
今後の収入や生活費を見通す
財産の整理ができたら今後の収支を見通しましょう。
直近1年の通帳の動きを整理すると年間の収入や支出を整理することができます。
生活費は細かく試算するとキリがないので特にお金がかかる住居費、教育費、食費、その他、という感じで大きい数字をとらえて計算します。
こちらの記事では収支予測表の作成方法について解説しています。
今後の住まい(生活)を検討する
親子で同居していない場合、今後は配偶者ひとりで生活することになります。
ひとりでいつまで生活できるのか?老人ホームなどの施設入居するか?その後の自宅をどうするか?など住まいに関するさまざまなことを検討する必要があります。
老人ホームへの入居をする場合には施設入居に関する費用を収支予測に見込んでおく必要があるでしょう。
小規模宅地等の特例について
自宅の土地家屋を有している場合には小規模宅地等の特例にも注意する必要があります。
自宅の土地評価には小規模宅地等の特例が相続税の計算に大きく影響を及ぼします。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは土地の相続税評価額に設けられている特例です。
被相続人の自宅について一定の相続人が取得することで相続税評価額を80%減額できます。(ただし、330㎡までが適用対象)
【計算例】
土地の相続税評価額
…5,000万円
小規模宅地等の特例による減額金額
…5,000万×80%=4,000万円
課税対象となる土地の評価
…5,000万-4,000万=1,000万円
配偶者が取得すると無条件で要件を満たす
自宅土地にかかる小規模宅地等の特例は配偶者が取得すると無条件で要件を満たします。
相続財産のなかに自宅土地がある場合には小規模宅地等の特例を意識して遺産分割を検討する必要があります。
なお、配偶者の他、同居している相続人も適用を受けることができます。
(ただし、申告期限までの居住継続要件および所有継続要件アリ)
二次相続をふまえた遺産分割の考え方
二次相続を踏まえた遺産分割はさまざまな要素が絡み合うため判断が難しいです。
私の考えを最後に整理しておきます。
- 配偶者の固有財産+一次相続でもらう財産の合計金額で今後の生活に安心ができるようにする
- 夫婦ふたりで暮らしていた場合には土地と家屋は配偶者が相続することで小規模宅地等の特例を活用する
- 上記の分割方針をベースに一次相続税、二次相続税を試算して金額に問題がないか確認する
- 二次相続を減らしたい場合には、生前贈与での相続税対策も検討する
今後の生活に安心を
一次相続の遺産分割は配偶者の安心を最優先します。配偶者が今後の生活に安心ができるように遺産分割を調整します。
調整する上では配偶者の固有財産も考慮にいれて合計金額で考えます。
どの程度の金額があれば安心なのか?は人によって基準が異なるので、ここは配偶者本人が安心できる基準をベースに金額を決めましょう。
自宅の土地・家屋は配偶者が相続する
住まいの確保は今後の生活の安心につながります。自宅の土地・家屋は配偶者が相続することを検討しましょう。
小規模宅地等の特例の適用により相続税の節税もすることができます。
一緒に暮らしていた子どもがいる場合には子どもに相続させることも◯ですが、その場合でも親子で共有で相続するなど配偶者も持分をいれたほうが安心につながるでしょう。
一次相続と二次相続の試算をする
上記の分割方針をベースに一次相続税、二次相続税を試算してみましょう。納税額に問題がなければこれをもとに遺産分割を確定させます。
一次相続のときに金融資産が少なく納税ができない場合には、配偶者の税額軽減を利用して納税額を減らすなど別途検討が必要です。
親子で同居していない場合の二次相続税を試算するときの自宅土地については小規模宅地等の特例が使えない前提で計算をしましょう。
二次相続税はこれから減らせる
二次相続税の試算はあくまでも現時点でのシミュレーション。
実際には、二次相続発生時点の財産をもとに金額が計算されます。
今後の生活で預金残高が減少する場合には二次相続税は少なくなります。
また、さらに減らしたい場合には、生前贈与での相続税対策を実行することで二次相続税を減らすことができます。
まとめ
二次相続を踏まえた遺産分割の考え方についてお話しました。遺産分割を税金負担だけで考えるのはNGです。配偶者の今後の生活保障を第一に広い視点で遺産分割を検討しましょう。
この検討には多くの時間を要します。相続が発生している場合にはなるべく早く検討を開始しましょう。
まだ、相続発生前の場合には前もって二次相続までを視野に入れて遺産分割を検討し夫婦揃って遺言書を作成しておくことをオススメします。
こちら↓に60歳から始める相続対策の記事をまとめています。ぜひこちらもご覧ください。
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